子どもの基本的な人格は幼児期(0〜6歳位まで)に作られると言われています。家庭だけでなく、大事な時期を過ごす環境も重要で、子どもを持つ親であれば、そのような場所も慎重に選びたいところだと思います。そこで今回は「見て、触れて、感じて、考えて、行動をする」という環境を作り、子供たちが自ら体験することを成長に繋げている施設であることから”世界で最も楽しい幼稚園”と称され、世界中の教育機関から注目されている「ふじようちえん」をご紹介します。案内していただくのは、ふじようちえんの設計・デザインを手がけ、以降、国内外で数々の魅力的な幼稚園を作り上げてきた建築家の手塚貴晴さん。この園の魅力を通じて、改めて、子供の育て方や育てる環境のことを考えてみませんか。
建築家・東京都市大学教授。OECD(世界経済協
力機構)とUNESCOにより世界で最も優れた学校に選ばれた「ふじようちえん」を始めとして、子供のための空間設計を多く手がける。日本建築学会賞、日本建築家協会賞、グッドデザイン金賞、子供環境学会賞など数多くの賞を受け、現在は建築設計活動に軸足を置きつつ、OECDより依頼を受け国内外各地にて子供環境に関する講演会を行なっている。
tezuka-arch.com
主な建築作品
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- むく保育園
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日本キリスト教団
番町教会
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日本キリスト教団
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- 富岡商工会議所
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楕円形の園舎の屋上はすべてウッドデッキとなっており、子どもたちが自由に遊べるように作られている。「子どもは行き止まらない空間が好きなところから、このようなカタチを考えました。また何かをしなさいというのではなく、自分で何かをしたくなるような場所にしたいという想いがあります。四角い台なども遊具ではありませんが、子どもたちは登って遊んだりしていますよね。そういう自然な行動を引き起こすことが大事なのです」
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元気に走りまわる園児たち。屋上の外周は約200mほどで、内周はその半分の約100mほど。中には1日に6kmも走る子もいて、自然に脚力がつくという。
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屋上に突き出た木もアイデアのひとつ。木の周りにはアスレチックネットが張ってあるので、安全性も確保されている。子どもたちはこぞって木登りを楽しんでいた。「こうした木があるだけで、子どもたちは自然と登りたくなるんですよね。今の時代、木登りができない子も多いですが、木登りは腕や脚の力が強くなるだけではなく、自然との触れ合いもできるんですよ」手塚さんも子どもたちと一緒に木登りを楽しんでいた。
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「建物はカタチではなく、そこでどういうことが起こるかが大事。この場所であれば、子どもたちは縦横無尽に走ったり、遊んだりするうちに遊び方を学び、自然と体力も養われる。そして木登りによって、自然とも触れ合う機会を得ているのです。ちなみに走る距離も、通常の幼稚園では考えられない距離を走っていて、園長に聞いた話ですが、小学校に上がるとリレーの選手は皆、ふじようちえんの卒園生らしいですよ」
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「この建物の大事なポイントは、境界がないことなんです。オープンスペースとすることで、子供達はどこでも自由に行き来することができます。また建物だけでなく、園児や先生たちの中にも外国人がいて、人と人、人種、そして植物や動物など、自然との境界もないのも特徴となっています」と手塚さん。ちなみに園舎の内側に植えられている芝生はすべて計画されて植えられているという。
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園舎の一階部分は、先生たちの事務室とトイレを除き、園児たちの教室となっている。全体を見渡すことができる作りもこだわった点のひとつ。
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ふじようちえんの園舎の特徴のひとつが軒のある作り。「いま、軒のある幼稚園が少なくなっているんですよね。軒下は、外と中の違いや季節の移り変わりを体感できる学べる空間なんです。雨が降ったら傘を差す。そんなごく当たり前のことを当たり前にできていない世の中なので、それを子供のうちにしっかりとできるようにするというのがこの幼稚園の魅力なんですよ」と手塚さん。
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園舎の裏側には砂浜と呼ばれる枠のない大きな砂場がある。そこには小さな宝石(大半はフェイクだが本物もアリ)が埋められていて、子供たちは遊びながら、宝物も見つけることができる。
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この日も多くの園児たちが砂浜での宝探しに没頭していた。見つけた宝石は家に持ち帰ることができる。手塚さんも自然と子供の輪に加わっていた。
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「園児たちは皆、夢中で宝探しをしています。たくさん見つけられる子もいれば、見つけられない子もいる。それはそれでいい。」と園長はいいます。「でも、ひとつルールがあって、たくさん見つけた子は、見つけられなかった子に分けてあげること。そうすると分けてもらった子は『ありがとう』という感謝の気持ちを覚えます。それが大事で、そういった未来になっても変わらない価値をここでは教えているんです」
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園舎の裏手にはツリーハウスと呼ばれる円筒状の建物があり、主に英語を勉強する施設となっている。またツリーハウスの裏側に送迎バスの乗り場があるため、園児たちの待合施設としても使用されている
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「ここは、教室までのアプローチを螺旋状とすることで、子供達が遊べるような場所にもなっています。段差に関しても子供の身長等を考え、飛び降りても大丈夫な高さに設定し、また足元もクッション性が高くて丈夫なゴムチップ張りとしています。子供たちには遊びの要素は必要で、楽しく遊びながら、英語を学べる空間になっていると思います」
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先生たちの事務室もまたオープンスペース。園長のデスクは、園の内側を向いて、園内全体が見渡せ、常に園児たちの様子を伺うことができるようになっている。
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園長のデスク前には、さまざまな農作物や植物、生き物が並び、それは季節によって入れ替わる。お店のような感じとしているのもこだわり。「パソコンやタブレットで調べて分かった気になるよりも実際にそのものを見て、触って、感じる方が良いと考えているんです。実体験をすることによって、子供達は何かを感じて伝えることができるようになる。それがいいんですよ」と園長。
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この幼稚園のキーワードとして、はじめに園長からもらったのは「みんなが集まる村みたいな、仲良く一緒にいる感じがいい」というものでした。漠然とはしていましたが、園長にはしっかりとした思想があったので、それをカタチにするのは意外とやりやすかったですね。
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元々幼稚園という場所は、やってはいけない決まりがたくさんあって、社会とは隔離されていたんですよね。でも、世の中というのは、楽しいことだけでなく、厳しいことなど色々なことがあるんですよ。外に出たら当たり前のこと、それをこのふじようちえんは取り入れているんですよね。実際、園長と話し合って「そうだよね」という同意をもとに作っていったら、こういう場所ができたんです。
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人間にはビオトープ(生息空間)が大事で、我々は丁度いい文明の中で生きています。人間には、長い歴史の中で培われた当たり前の変わらない部分(価値観)があり、それは未来永劫変わることはないんですよ。種を蒔き、植物が育ち、収穫をし、調理をして食べる。そんな当たり前の生活を、成長の段階で大事な時期の子どもたちに教えることが、一番これからの未来に役立つ。そう言った考えをもとにこの場所を作りました。
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私たちはよく、自分たちのことをサーフボードメーカーだと言います。それは、高いポテンシャルを持っているサーファーがいて、その人にもっと良いボードを作ってあげるとそのポテンシャルを発揮することができ、さらに上に行くことができるようになるんです。今後もそんな、それぞれの人間が持つポテンシャルを上げていけるような空間を作っていきたいですね。
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